【映画レビュー】GHOST IN THE SHELL/攻殻機動隊に見る、自分との向き合い方

アニメ

人は誰しも、自分というものを最も気にする生き物である。自分は何者なのか。どういった立ち回りをしたら良いのか。自分は本当にこれで良いのか。他人と織り成してゆく幾つものストーリーに短い人生を捧げてしまい、暇などない。この人間ドラマを見ることでそれを考察する良い機会となるであろう。

この映画は80分という狭さながらSFの世界観、登場人物の人間関係、メッセージが詰まったまま綺麗に完結している。

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この映画の難しさはコンピューターのそれとは真逆のものである。

論評(ネタバレあり)

この作品は欲張りで、テーマを探すとキリがない。しかし、全編を通じて扱われるのは紛れもなく、自身の姿ないしアイデンティティに対する考察である。

攻殻機動隊は進歩と退廃の対をうまく利用して個人の考えに切り込んでいる。

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暗いトーンで描かれたシーンを多用しているのもこの映画の見どころだ。

自我のない、不幸な人間

進歩した技術の象徴、光学迷彩の似合わないスラム街などは、今のスマホが誰のものにもなった状況にそっくりだ。誰もが夢を見るし、それに何かを差し出す。

しかし、成功する人間というのは限られている。進歩が全員の味方をするわけではない。それでも人々は己を認めざるを得ないのだ。

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一般大衆について描かれることはおおよそない。しかしこの物語に登場する人物の顔が明るいこともまたない。

ゴミ回収業者は妻子のために頑張る良き父を演じながら、鉄砲を所持し、任務遂行のためなら暴力という悪事にも簡単に手を染めようとしていた。

この矛盾した行動には、自我を簡単に忘れられてしまう都合の悪さ、すなわち錯乱が現れている。

赤い血の流れる彼はその精神状態ゆえに、機械でもない癖に都合よく”利用されて”しまった、と描写されている。

自我に悩む少佐

主人公草薙素子(職業上少佐と呼ばれている)は、自我について考えることが多くなっていた。自身が義体でありながら、人間として生まれた頃の記憶も残したまま。

彼女は義体化する前の記憶も自身の野望も残しており、それらすべてが自分を自分足らしめると信じてやまない。それゆえ、9課への所属が正しいかどうか悩むのだ。

9課に居続けることで大量の報酬と引き換えに自身を差し出すことになる。また解任時には記憶を消されなくてはならない。結果として現時点からはどうあがいても素子の否定でしかないのだ。

少佐に忍び寄る人形使い

水没した旧市街の博物館で広げられた戦車との戦い。少佐は自身を破壊してもなお、人形使いに自力で近づくことができなかった。バトーの助けで彼女は情報の海で生まれたという人格に個人的な興味もあって接近を試みる。

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実体を掴むことが出来ないため、捜査は難解になる中、少佐は考えた。

一体この意識はどんな生い立ちを持って何を求めているのか。少佐が義体を梯子する人格に触れた時、自身の体に宿る人形使いに気づき、融合という契約を持ちかけられる。

ともに脳を必要としない人格となることで優秀な物理義体使いの少佐の力を借りて様々な情報空間を旅行しようという誘いに、悩みからか流石の少佐も気が揺らぐ。

半永久的な存在になることは、生殖による繁栄を目指す生物の頂点に君臨することであり、人形使いは自身のハッキング能力を確かめくてたまらないのだ。

バトーの愛した少佐とは

バトーは上記の二人をただ眺めることしかできない。いつも少佐の気持ちを汲み取ろうとしていた彼は凄腕ハッカーの実力の前には腕すら動かすことができなかった。

彼は少佐のゴーストが入っていないことは承知の上で彼女の頭を守ろうとした。彼女の姿のものに彼女がいると信じたのである。

意識を失う少佐が見たのは、吹き飛ばされた自らに叫ぶバトーだった。

バトーは少佐を庇護すると言いつつも、彼女の意図を理解していた。ついに彼女は彼から離れることとなる。そこで、少佐は

“童(わらべ)のときは語ることも童のごとく思うことも童のごとく
論ずることも童のごとくなりしが人となりては童のことを捨てたり”

新約聖書

と引用して新たな自己認識に進んだと諭すのだった。

レビュー(ネタバレなし)


以下は見たことがない人が見ても大丈夫なレビューである。


この作品について語り出すとキリがないが、各所に見られる暗喩が非常に効いており、見るうちに画面の中を探して目が走り回っていた。


この作品が非常に上手いと思わせるのは、レイアウトだろう。画面の中の配置が台詞にマッチして対比を演出したり、同一性を描いているところには驚かされた。見終わってみると実は戦車の弾薬、素子の揺れ、バトーの腕、ゴミ回収業者の走り方、その全てが計算されているように均整的だと気づく。


台詞と声色によって人間関係が浮かび上がるという、映像化におそらくすこぶる遠い文学的な要素がいくつも見つかっている。

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舞台は中国的などこか。移民が流入した香港説がある。

エンタメ性を削っているように見えるらしいが充実感に足りないところも見つからなかった。シリーズの中でも人を選ぶ作品とよくいわれる。確かに享受という類いのエンタメではない。

このように作られておきながら知名度は足りないような気がしている。放映からこれだけ時間が経ってしまうと話題にもならない。この映画のファンとして悲しいことだ。

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荒廃と進歩の同居する世界の物語であった。


この作品(原作も含め)から30年の時間が経って、専門用語も我々に近いものとなった。我々が同じく考える、登場人物の私を決定する謎の存在ゴーストについてこの作品を見ながらコーヒーでも頂こう。

以上の記事は以下の「あにこれ」に投稿したレビューに加筆・修正したものです。

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